로그인「おじいちゃん。あの人、うちの会社の人!?」「そうだよ。あの子は俺の友人の孫みたいな存在なんだ。生い立ちが可哀想だから、思わず海外から日本へ連れ帰ったんだ。仕事もできる子みたいだし、将来うちの会社を支えてくれる上層部になりそうだ」 外資系の大手企業のエントランスの中、そんな会話がなされている。 今日はたまたま入社するはずの企業の下見に来ていた。 一般の入社ではない。いわゆる「親の力」を使ってのコネ入社と言われるものだ。 彼女、大竹亜香里(おおたけあかり)24歳の祖父は会長、父は社長というポジションについている。 彼女はこの仕事に興味があって入社するわけではない。絶対的な安定の下で成り立っている会社で、親の関わりをうまく使いながらゆっくりと仕事ができれば良いと考えている。<あの人>と呼ばれたのは、社内でも有名な「黒崎連(くろさきれん)」だ。 彼は普通に出社のためエントランスを歩いていただけだが、その容姿からかなり有名だった。 アメリカからの帰国子女、アメリカでの生活がかなり長かったというのに、きれいな日本語で礼儀正しい。ただ、どこか冷たい雰囲気もあり、必要以上に他人とコミュニケーションをとらない。仕事はそつなくこなし、成績も良いから上層部でも彼の名前があがる。彼を日本へとスカウトした島田という人物はすでに定年を迎え、今では大きな力はなくOBとして時折経営会議などに出席するくらいだ。「ええ。亜香里のタイプなんだけど。おじいちゃん。あの人に私の新人研修をお願いしてくれない?」「それはな、一応会社の決まりってものがあるから。黒崎くんは会社の前衛で商談しているクラスの人だから。ちょっと難しいかもしれないな」 可愛い孫の頼みでも、難しいことはある。 やんわりと言い聞かせれば、亜香里も理解できるだろうと思っていた。「えー。お願い!あの人がいい!じゃないと、おじいちゃんが秘密で会社のお金使っていること、公表しちゃうからね!」「なっ!?」 そんなことをしていないと反論をすれば良かったか。いや、事実だ。 まだ亜香里が小さかった頃に軽く話してしまったことがある。「おじいちゃんは偉い人だから、会社のお金を自由に使えるんだよ」と。 それを亜香里は覚えているのか。実際に、会社の金で亜香里にプレゼントをしたこともある。お小遣いだと言って、現金を渡したことも
「どうしていいのかわからなくなった時、美桜に辛かったら別れた方がいいなんて言ってしまいましたが、本心じゃありませんでした。本当は別れたくない。打開策が見つからなくて、あんなことを言ってしまってすみませんでした」「私も蓮さんがそんな大きなことを抱えていることを知らずに、自分のことばかり考えてました。謝るのは私の方です。蓮さんを信じるって言ったのに。辛さに負けて、さよならなんて……。本当はしたくなかったのに」「理由もわからないのに、あんな態度をとられたら誰だってそう思いますよ?美桜は全然悪くない。俺、美桜が残してくれた手紙を読んで、はっきりわかったんです。俺は、美桜がいないとダメだって」 蓮さんの家に荷物を取りに行った時、残してきた手紙をちゃんと読んでくれたんだ。「だから、戦うことにしました。まずアメリカに行き、祖母に事情を話しました。そしたらそんな馬鹿な会社、こっちから契約を切ってやるわって言ってくれて。ここ数年、事業の方は上手くいっているらしくて、もし俺の会社との取引を止めればもちろん収益は下がるみたいでしたが、倒産とかそこまでにはならないようでした。俺が日本にいる間、祖母もいろいろ頑張ってくれていたらしく……。祖母の方はなんとかなりそうでした」「ここで会社を辞めればいいと簡単に考えてしまいましたが、逆恨みをされて、美桜に危害があっても嫌でしたので、会社のブラック的な部分を調べ、こちらが優位に立てるよう内部を調べました。そしたら、簡単にとある政治家に不法な献金をしていることがわかりました。世の中にこれが出回れば、もちろん会社も大ダメージを受け、社長は辞職しなければならないでしょう。証拠を揃えて、公表してほしくなかったら、今後もう二度と関わらないように約束をしてもらいました。もちろん、俺が狙われる可能性もあったので、証拠のUSBは俺じゃない違う人が持っています。そして、会社を辞めてきました」 なんというか、すごいという言葉しか浮かばなかった。 私よりそんなに歳が離れているわけでもないのに、ここまでできるだろうか。「ただ、どんな事情があったにしても、美桜には謝ることしかできないです」 もし、美桜が別れたと思っているのであれば、もう一度俺と付き合ってください」 ドキンと心臓の鼓動が速くなる。「都合が良い……。と思われてしまうかもしれませんが、俺は美
「美桜は、家に帰らなきゃいけませんよね?」「帰らなくても大丈夫です」 母は病院だ。私の帰りを心配する人は誰もいない。「きちんと説明したいんです。どうしてこうなったのかを……。もし良かったら、俺が泊るホテルに来てくれませんか?」「はい」 話せるようになったのだろうか、連絡が取れなくなった理由、女の人といた理由を。「歩けますか?抱っこしましょうか?」 蓮さんは変わらず以前のように手を優しく引いてくれた。「ホテルに行く前に、コンビニに寄ってもいいですか?美桜の足から出血してます。消毒しないと……」 ああ、いつもの蓮さんだ。 あの女の人にも……。こんなに優しかったのかな。 キスしていたところを思い出し、複雑な気持ちになる。 コンビニにより、蓮さんは消毒液と飲み物を買ってくれた。 蓮さんが泊るという駅前のホテルに着く。 チェックインはしており、一応、二人部屋で予約をしてあるから入っても大丈夫だと言う。 ビジネスホテルのため、そんなに部屋は広くはなかった。 窓際の椅子に座らせてもらう。「ちょっと沁みますよ?」 出会った頃のように、変わらずテキパキと消毒をしてくれる。 嬉しい……と感じてしまうのは、私の感情がおかしいのだろうか。「ありがとうございました」「温かいお茶、飲みますか?」 そう言って、ホテルにあるポットを使ってお湯を沸かし、紅茶を淹れてくれる。私が紅茶が好きだって覚えていてくれたんだ。 蓮さんが淹れてくれた紅茶を一口飲む。そんな私の様子に彼は安堵しているようだった。 彼と机を挟み、対面になる。 何を話していいのか、言葉が出てこない。「辛い思いをさせてすみませんでした。どうしてこうなったのか、やっと話せる時が来たので、会いにきました。許してもらえるとは思っていません。いきなりあんなことになってしまって。美桜には謝ることしかできません」 蓮さんは目を下に落としながら、ふぅと深く息を吐いた。「美桜に連絡をしようと思ったら繋がらなくなっていて……。アパートも転居しているようだったので、アルバイト先にも何度か行ったんですが、働いていないようで……。大学にも行きましたが、会えませんでした」 蓮さん、私のことそんなに探してくれたんだ。「唯一、残された手がかりとして、優菜さんがいました。優菜さんももちろん俺の
振り返ると、畑野さんがうしろに立っていた。 周りには誰もいなかったため、嫌だなと思ってしまう。「先ほどはありがとうございました」 とりあえず、お店に来てくれたお礼を伝えよう。「美桜ちゃんに会いたくてね。おじさん。本当だよ?」 酔っているのかわからない。が、段々と近づいてくる。「お母さん、大変なんだってね?お金……も大変なんでしょ?」 後ずさりするわけにもいかず、立っていると、ついに畑野さんは私の肩に手を回してきた。 いやだな。お酒臭い。「おじさんのお願いを聞いてくれたら、お金のこと、相談に乗ってあげてもいいよ?」 顔が近い。振り払いたいけどこの人はお客さんだから。できるだけ我慢しなきゃ。「お気遣いいただき、ありがとうございます。でも、大丈夫ですので。またお店に来てくださいね」 私は畑野さんから離れようとした。 お願いとは、きっと身体の関係とか。パパ活とかそんな話だよね。「そんなこと言わないでさ。美桜ちゃんがおじさんのお願いを一つ聞いてくれるだけで、お金を援助してあげるって言ってるんだからさ?簡単なことだよ」 畑野さんはなかなか離してくれなかった。 どうしよう、強引に離れることはできるかもしれない。 常連さんだし嫌な思いをさせたら、せっかく雇ってくれたスナックのママさんに迷惑をかけてしまう。「ごめんなさい。結構ですので」 私が少し強引に畑野さんから離れようとした時「おい、馬鹿にしてんじゃねーぞ。こっちが優しくしてやってんのにさ。お前くらいのガキはどこにだっているんだよ?調子に乗るなよ!」 そう言われ突き飛ばされ、勢いよく転んでしまった。 痛い、膝から出血しているのが見えた。 男の人ってみんなこうなの? 東京での出来事を思い出す。 そして、転んでケガをした時、蓮さんに手当てをしてもらったことを思い出した。「なんでこんな時に……。思い出すんだろう」 独り言だったが、声に出して呟いてしまった。 「ああ?なんだって?」 畑野さんはまだ怒っているらしく、私に近寄ってくる。 お酒のせいか、正常だとは思えなかった。 私は、地面に座り込んだまま動けない。 次は何をされるんだろう? そう思った時ーー。「何をしてるんですか?」 この声、何度も聞いたことがある。 声のする方向を見ると、そこにいるはずのない人が
「一言だけ言います。美桜はもう東京にはいません。それだけ教えてあげます。詳しいことを話すかどうかは、黒崎さんの理由を聞いてからにします」「東京に……。いないんですか?」 彼は目を見開き、驚いている。 冷静な彼でもそんな表情をするんだ、そんなことを思った。「わかりました。では、場所を移しましょう。時間、ありますか?」「はい」 二人で大学近くのファミレスに入り、黒崎さんの話を聞く。「えーー!!そんなドラマみたいな話がありますか?嘘でしょ?絶対」「嘘ではありません」 淡々と彼は答えた。 ドリンクバーのジュースを勢いよく私は飲む。 じゃないと、落ち着いていられなかった。「いやいや。そんな世界が身近にあるなんて。本当に信じられないんですけど」「正直、こうするしかなかった。美桜には本当に申し訳ないことをしたと思っています」「なんて言っていいか、もうわかりません」「美桜が許してくれるまで謝ります。俺は美桜のことがもちろんまだ好きです」 よく恥ずかし気もなく好きなんて言葉が出せるな。羨ましい。「その話、私は信じます。美桜も……。きっとまだ蓮さんのことが好きだと思うから。迎えに行ってあげてください。それで、もうあの子に苦しい思いをさせないで。約束してください」「はい、約束します」 私は彼女の今いる場所を彼に教えることにした。・・・---「美桜ちゃーん、会いたかったよ。この後、おじさんと遊びに行こうよ?」 泥酔した中年男性に絡まれる。 私は東京を離れ、夜は地元のスナックで働いていた。 愛想笑いでなんとかやり過ごす。「ちょっと、畑野さん!あんまり絡まないでよ?キャバクラじゃないんだから。だったらその分、指名料払ってちょうだい」 お客さんは、スナックのママさんに叱咤されている。「はいはい。ママは厳しいな」 ママさんから、注意を受けてもお酒をまだ上機嫌で飲んでいる。 きっと常連さんなのだろう、こんなやり取りが当たり前なんだ。 私の義母が、病気のため療養をすることになった。 そのため、東京から実家に帰ってきており、母の入院費を含め生活のために日中からレストランでアルバイトをし、夜は時給の良いスナックで働いている。 大学は一旦休学をした。 休学期間中にまた戻れるかどうかわからなかったが、せっかく途中まで勉強をした。戻れること
私のこと、年下だけど、下に接するような人じゃなかったし、自信を持てなかったのはいつも私の方で。だけど蓮さんが大切にしてくれて、自分を変えなきゃって思って可愛くなれるように努力したし、料理だって勉強した。 蓮さんと付き合っていても良いんだって、思えるように頑張ってた。 その時、涙が流れた。 やばい、こんなところで。 思わず涙を拭うと「わっ。ごめん。キツイこと言ったかも。泣くなよ。悪気はないんだって」 橋本くんが慌てている。 そしてティッシュをくれた。「ごめん」 私は彼から受け取り、涙を拭いた。 私の中にまだこんなに蓮さんが残っているんだ。それで自分の悪いところが復活しちゃったのも。橋本くんが教えてくれた。 涙はすぐに止まり、何事もなかったように食事をしたけれど、橋本くんはそれからどこか控えめだった。彼なりに気を遣ってくれたのかな。 橋本くんに家まで車で送ってもらった。 車から降りる時「東条。俺と付き合わない?」 橋本くんからの一言に、動きが止まる。 付き合う?橋本くんから告白された?「俺、実は昔、東条のことが好きで。中学生だった頃。さりげなく告白したつもりだったんだけど、お前、それ気づかなくてさ。卒業しちゃったんだ。どうしてきちんと言わなかったんだろうって後悔してた。今再会できて、東条、昔と同じで変わってなくて。お人好しで、バイトは一生懸命だし。今の東条を好きになった。別れたばかりでこんなこと伝えるのもダメかなって思ったんだけど、俺、もう後悔はしたくなくて。俺と付き合ってほしい」 橋本くんは、嘘をつくような人じゃないから。 その気持ちは本気なんだ。 私、橋本くんの前では自然体だし、巣の自分でいることができる。 だけど、蓮さんの時とは違うんだ。彼のことは好きだけど、好きじゃない。ドキドキしないんだ。 恋愛感情はない。それにまだまだ蓮さんに気持ちがあって、こんな状態で橋本くんと付き合うなんて失礼すぎる。しっかりと伝えてくれた彼に、私もきちんと答えなきゃ。「ごめん。私、まだ元彼のことが好きで。橋本くんとは付き合えない」 言葉にしたらまた蓮さんのことを思い出して、思い出に囚われてしまうかと思っていた。 だから言えなかったけれど、私、蓮さんのことがまだ好きなんだ。「そっか。わかった。俺、しっかりと言えて良かった。アルバイト先
「はあ?」 思わず優菜が声を上げたが「大丈夫。行こう?」 私たちはその場から離れる。「ああ、ムカつく!なにあれ?」 空いている教室で優菜と話す。「どうするんだろうね。どうやって黒崎さんと会うつもりなんだろう。連絡先だって知らないのに」「わからない。だけど、私は負けない」 頭を抱えそうになるけれど、蓮さんは私のことが好きだと言ってくれている。それに人を簡単に傷つける彼女は、きっと蓮さんは嫌いなタイプの子だ。可愛いからってすぐに好きになるような男の人ではない。蓮だってしばらく恋愛はしていなかったって言っていたし、社内からモテるってこの前言われてた。真帆ちゃんに騙されるわけがな
話しかけてきたのは、同じ学年の藤原 真帆《ふじわら まほ》だった。 うしろには二人の女の子もいる。 真帆ちゃんとは、大学の入学時に一緒のゼミになった。知らない人たちばかりでドキドキしていた私に最初に気さくに声をかけてくれたのが真帆ちゃんだ。 「美桜ちゃん、次の講義、一緒に行こうよ」なんて声をかけてくれていたのに。 ある日をきっかけに、話しかけてくれない、ううん、無視をされるようになった。 大学一年生の時、真帆ちゃんと教室に入ろうとすると、男子学生の声が聞こえてきた。「藤原さんと東条さんって、二人でよく一緒にいるよな?仲良いのかな」「授業一緒に受けているし、仲良いんじゃない
二人でベンチに座り、ジュースを飲みながら海を見る。「楽しかったですか?」「はい、楽しかったです。また来たいです」「初めてのデートでしたけど、どこか不満はありますか?」 不満なんてとんでもない。「そんなことっ!」 あっ、一つだけお願いしたいことがあった。「黒崎さん。これから私のこと、呼び捨てで呼んでほしいです。美桜って」 彼は優しい顔をしながら「わかりました」 返事をしてくれた。 「じゃあ、俺のことも名前で呼んでください」「えっ?」「俺も名前で呼んでほしいです」 黒崎さんを名前で呼ぶ。 自分で言い出したことなのに、急に恥ずかしくなっちゃった。「名前で呼んで?
「暗い話になってしまい、すみません。自分のことは不幸だと思ったことはないので。気にしないでくださいね」 気にしないでくださいねと言う彼。「私、黒崎さんの支えになりたいです!今は頼りないかもしれないけど。もっと強くなって大人の女性になれるよう頑張ります」 もっともっと強くなりたい。 彼が頼ってくれるような人になりたい。 いつまでも守られているようじゃダメだ。「もう十分支えられています。俺が愛ちゃんを守らないといけませんね」「ダメです!たまには守られててください」 私の言葉を聞いて彼は笑う。「わかりました。期待しています。でも……」 車が信号で止まった。 彼は私が先ほど口に







